車に乗りこむと香織が「あの人だれ」と不安そうに聞いてきた。 昨日の昼間、服部と二人でハイテックスの本社に行った。品川の工場地帯にある本社は校舎を思わせる外観で、各窓に後付けされたエアコンの屋外機が目立つ、古びたコンクリートの建物だった。受付で総務部の責任者を呼びだすと、合板で囲っただけの応接室に通され、顔の平たい恰幅《かっぷく》のよい中年男が現れた。服部が会計監査の話を切りだす。本城支店の経理にどんな不審点があったのかを聞きだそうとした。
そうやって何人かと対戦し、すべて手早く一本を取っていった。若手に稽古をつけてやる気はない。体力を使いたくないからだ。 もう及川恭子の車のテールランプは見えなかった。しかしここは町中ではない。すぐに追いつくはずだ。
小松は灰皿に煙草を置き、右手の中指で鼻のわきをこすった。しかし天吾の問いかけに対しては返事をしなかった。 「腐葉土《ふようど》とか、肥料とか。あとレンガも」
「大丈夫。孫親方は辛気を煩《わずら》って長期療養ってことにしておいたわ。これが医師の診断書。これが休養届け。ほら署名して」 「寧温が百浦添御殿《ももうらそえウドゥン》重修仮奉行!?」
「まずい。王宮を攻める気だ!」 こんな日はたいていそうだ。心にかすかな薄雲が広がる。一度、茂則の競馬につきあって、勝つところを目撃できたらどれほど気がらくなことだろう。
ちょっとした別のアイデア 闇の中のドライブ。対向車のヘッドライト。緑色に浮きでた車の計器パネル——。